ほぼ唯一、ひらがなだけでも読める日本酒、あべ
日本酒のラベルの多くは漢字で書かれており、中には普段あまり使われない漢字や特殊な読み方も多いため、日本人でも読めない銘柄は少なくありません。
しかし、今回紹介する日本酒なら、日本語を勉強し始めたばかりの初級者でも読むことができます。
その名は「あべ」。
新潟県柏崎市の海沿いに蔵を構える、阿部酒造が醸す日本酒です。
新潟の酒蔵らしく、その歴史は軽く200年以上。1804年に新潟県柏崎市で創業し、長年にわたり「越の男山」を造り続けてきました。
現在の主力ブランドである「あべ」が誕生したのは2015年。現6代目蔵元の阿部裕太氏によって生み出されました。
(ちょうど私が看護学科に入学した頃です。もし日本で生まれていたら、チャミスルではなく「あべ」を飲んでいたかもしれません。)
実は阿部氏が蔵に戻るまで、酒蔵は深刻な経営難に直面していました。このまま大きな変革を起こせなければ、廃業も現実的に考えなければならない状況だったといいます。
そんな危機的な状況の中、阿部氏は蔵からの呼びかけを受けて急いで帰郷し、蔵元を継ぐことになりました。
「もし私が3年後に戻っていたら、うちの蔵はなくなっていたでしょう。」
これは阿部氏があるインタビューで語った言葉です。
では、阿部酒造はどのようにして復活への道を切り開いたのでしょうか。
1. 取り組んだのは、新潟酒の代名詞ともいえる「淡麗辛口」から脱却することでした。
阿部氏は「自分がおいしいと思えない酒は売れない」と考え、それまで造っていた淡麗辛口の酒をやめ、ほどよい酸味と甘みを持つ酒造りへと舵を切ります。
2. 販売の主戦場を新潟県内から東京へ移しました。
実は、この戦略を取った酒蔵を以前このブログでも紹介しました。
それが、岩手県の人気銘柄「赤武」です。若い世代を中心に支持を集めている赤武も、同じように東京市場へ積極的に進出したことで知名度を高めていきました。
日本で最もお金が動く一方で、最も競争が激しい市場でもある東京。
その厳しい環境で生き残るため、阿部氏は自ら東京の酒販店を一軒一軒訪ね歩き、新たな取引先の開拓に奔走したのです。
もちろん、最初から酒販店や飲食店が阿部酒造の酒を取り扱ってくれたわけではありませんでした。
理由はいくつもあったと思われますが、その一つとして挙げられるのが、当時の主力銘柄であった「越の男山」という名前です。
「越の~」や「男山」は日本酒ではよく見かける名称であり、「越の男山」という名前も、いわば日本酒らしい名前を組み合わせたような印象を与えていたといいます。そのため、東京市場で新たな個性を打ち出すには苦労があったようです。
一方で、同じく東京市場を目指していた同世代の酒蔵である赤武酒造や加茂錦酒造には追い風が吹き始めていました。
周囲の酒蔵が次々と注目を集めるなか、思うような成果を出せない状況は、阿部氏をさらに苦しめたことでしょう。
それでも阿部氏は、成功した多くの酒蔵と同じように東京進出を諦めませんでした。
そして良い縁に恵まれながら、自らの理想を形にした「あべシリーズ」を誕生させます。
このシリーズは東京だけでなく、やがて日本全国の日本酒ファンに知られる存在へと成長していきました。
こうして私たちが今楽しめるようになった「あべシリーズ」ですが、そのラインナップは驚くほど多彩です。
一つひとつ調べながら飲み比べるとなると、さまざまなサイトを行き来する必要があります。
そこで今回は、あべシリーズのラインナップをまとめて見ていきましょう。
阿部酒造のラインナップ
あべシリーズ
1. あべ ブラック
米の旨味と酸味のバランスに優れた、精米歩合80%のあべシリーズ。
貯蔵タンクごとに味わいが微妙に異なり、それぞれに個性があります。
使用する酒米は毎年変わりますが、すべて新潟県産米を使用しています。
2. あべ イエロー
ほどよい酸味とともに、フレッシュでクリーンな味わいが特徴です。
新潟県長岡市で栽培される酒米「一本〆」を使用しています。
3. あべ ブルー
あべシリーズの夏限定酒。
夏酒らしく、すっきりとしたドライな飲み口が特徴です。
使用米は新潟県産米です。
4. あべ シルバー
ブラックよりもさらにクリアな味わいで、酸味が際立つ一本。
毎年異なる品種の米を使用しますが、すべて新潟県産米を採用しています。
ブラックと同様に、貯蔵タンクによって味わいに微妙な違いがあります。
5. あべ ピンク
個人的には、あべシリーズの中で最もかわいらしい一本です。
(とはいえ、違いはラベルカラーくらいなのですが、それが意外と大きい。)
ジューシーな味わいを持ちながらも、適度な酸味とアルコール感によって食中酒として楽しめるよう設計されています。
おりがらみの生酒です。
6. あべ グリーン
阿部酒造のある柏崎市の酒蔵「原酒造」が開発に参加した酒米「楽風舞(らくふうまい)」を使用しているのが特徴です。
軽やかな旨味と爽やかな酸味を楽しめます。
プラチナムライン
7. あべ ゴールド
やはり高価格帯の日本酒には、「ゴールド」という名前がよく似合います。
グリーンと同様に、原酒造が開発に参加した酒米「越神楽(こしかぐら)」を使用しています。
精米歩合45%の純米大吟醸として限定発売されます。
口いっぱいに広がるジューシーな味わいが特徴です。
8. あべ プラチナム ホワイト
だんだんiPhone Proのカラーバリエーションのような名前になってきた気もします。
新潟県酒造好適米を45%まで磨いて醸造されています。
クリアで爽快感のある味わいが特徴です。
高級感あふれるパッケージをご覧ください。
贈り物や記念日の一本としてもぴったりです。価格は16,500円(税込)。
箱にもかなり力が入っているようで、名前だけでなく、箱を開ける瞬間のワクワク感まで、まるでiPhoneを開封するときのような体験を提供してくれるのではないかと思います。
(とはいえ、私はまだ飲んだことがありません。)
9. あべ プラチナム ブラック
果実を思わせる華やかな香りをベースに、後味にはラムネを連想させる爽やかな香りが広がります。
阿部酒造が自社の田んぼで栽培した新潟県産米を45%まで磨いて醸した、プレミアムな一本です。
同様に、パッケージにも強いこだわりが感じられます。
★(スター)シリーズ
ラベルに、その酒に使用された米を育てた田んぼの写真が使われているのが特徴です。
★(スター)シリーズは、使用米の精米歩合をすべて非公開としているのが特徴です。
1. ベガ
日本酒らしい味わいを持ちながらも、軽やかでなめらかな飲み口が特徴です。
基本は火入れ酒ですが、イベントなどでは直汲みの無濾過生酒として販売されることもあるそうです。
(ぜひ一度飲んでみたい一本です。)
2. アークトゥルス
スパークリング日本酒です。(500ml)
イチゴを思わせるような甘酸っぱい風味が特徴。
使用米は新潟県産米です。
3. デネブ
食用米である「春陽(しゅんよう)」を使用して醸されています。
私は食べたことがありませんでしたが、調べてみると、たんぱく質の摂取制限が必要な方向けに開発された低たんぱく米とのことです。
マスカットを思わせる香りと、すっきりとした後味が特徴です。
4. フォーマルハウト
貴醸酒らしい濃厚な甘味が大きな特徴です。
使用米は新潟県産米。
ベガと同様、通常は火入れですが、イベントなどでは直汲み無濾過生酒として提供されることもあるそうです。
(これも飲んでみたい……。)
5. シリウス
瓶内二次発酵によって造られる、発泡感の強いスパークリング日本酒です。
二次発酵タイプの日本酒らしく、開栓にはかなり時間がかかります。
(早く飲みたい場合は勢いよく開けても構いません。ただし、半分くらいは吹きこぼれる覚悟が必要です。)
ほどよい酸味と軽快な飲み口を持ち、食前酒としても食中酒としても評価されています。
★シリーズの中では、個人的に最も好きなデザインです。
6. レグルス
クエン酸由来の爽やかな酸味が特徴です。
ベガやフォーマルハウトと同様、イベントなどでは直汲み無濾過生酒として提供されることがあるそうです。
(やはり飲んでみたい。)
圃場別(ほじょうべつ)シリーズ
酒蔵がある柏崎市の農家が栽培した米のみを使用して醸されるシリーズです。
地域の農家との連携や協力を目的としたラインナップであり、同じ柏崎市内でも田んぼごとの個性や違いを楽しめるのが魅力です。
- 安田鳥越
名前から分かる通り、安田地区と鳥越地区で栽培された米を使用して醸した酒です。
地域シリーズの中では、「里」のポジションを担当しています。
少しアイドルグループのメンバー名のような付け方をしたような感じがしますが……。
米作りを担当しているのは、以前阿部酒造で働いていた社員の方で、後に阿部酒造の米生産担当を務めることになりました。
(公式ホームページより抜粋)
発酵期間やアルコール度数は年によって異なるため、毎年飲みながら記憶を呼び起こしてみるのも一つの楽しみになりそうです。
精米歩合は80%です。
2. 上輪新田
上輪地区と新田地区で栽培された米を使用して醸したラベルです。
地域シリーズの中では、「海」のポジションを担当しています。
この地域は、後ろに山、前に海があるため塩害が発生しやすい環境ですが、契約農家の熟練した栽培技術によって、その心配はほぼゼロに近いそうです。
精米歩合は80%です。
発酵期間やアルコール度数は年によって異なります。
3. 赤田
赤田地区で栽培された米を使用して醸したラベルです。
地域シリーズの中では、「里」のポジションを担当しています。
精米歩合は、ほかの地域シリーズと同じく80%です。
発酵期間やアルコール度数は年によって異なります。
4. 野田
柏崎市の内陸部へ深く入った場所にある、野田地区で栽培された米を使用して醸したラベルです。
写真を見れば分かる通り、非常に険しい山々に囲まれた地域であるため、地域シリーズの中では「山」のポジションを担当しています。
精米歩合は80%です。
アルコール度数や発酵期間は年によって異なります。
5. 椎谷
地域シリーズのスピンオフ商品です。
椎谷地区で栽培された米を使用したものではなく、椎谷地区でサウナ事業を運営している「シーヤビレッジ」の人々との協力によって生まれた商品です。
ラインナップは「Alpha」と「Beta」の2種類。
どちらもサウナで使用される水と同じ水源の水を使って仕込まれています。
Alphaは中硬水を使用しており、後味がすっきりと切れるドライタイプ。
Betaは非常に強い酸味が特徴で、酸っぱい味わいを求める人にはおすすめです。
一方で、無難に楽しみたい人には……上で紹介したほかのラベルを選ぶことをおすすめします。
(販売サイトより)
このほかにもさまざまなラインナップがありますが、その多くはコラボ商品や特別商品です。
もし興味があれば、第二の出典である阿部酒造の公式サイトを参考にしてみてください。