辛口党も、甘口党も唸らせる酒を造る蔵元、くどき上手。
映画『Crazy, Stupid, Love』には、二人の主人公が登場する。
一人はライアン・ゴズリング、もう一人はスティーブ・カレルだ。
スティーブ・カレル演じる主人公は、初恋の相手であり心から愛していた妻から離婚を告げられ、いつも近所のバーで途方に暮れていた。
しかし彼は女性との話し方が分からない。隣に座った女性に対しても、誰も興味のない自分の離婚話ばかりを延々と続けてしまい、気づけばバーに一人取り残されていることが多かった。
そんな彼を長い間見ていたライアン・ゴズリング演じる男は、彼をAからZまで徹底的に変えていく。外見はもちろん、女性を口説くうえで最も重要な武器とも言える「口説き」まで教え込むのだ。
そしてスティーブ・カレルは、生まれて初めて複数の女性と関係を持つようになる。
そんな経験を通して、本当の愛とは何かに気づいていく――そんな映画だ。
作品そのものも非常によくできているので、コメディやロマンス映画に抵抗がなければ、私の好きな俳優であるスティーブ・カレルが出演している作品として、ぜひおすすめしたい。
突然の映画紹介になってしまったが、スティーブ・カレルが言葉で女性を惹きつけていたように、言葉で相手をその気にさせたり、心を動かしたりすることを「口説く」という。
そして今日紹介する日本酒の名前は「くどき上手」。
つまり、「人を口説くのが上手い」という意味の名前なのだ。
「とりあえず飲ませてみてくれ。説得は俺がするから。」
そんなイメージだろうか。
歴史
1875年、山形県鶴岡市に創業した亀の井酒造。
くどき上手はまだ誕生しておらず、当時は蔵の名前を冠した日本酒「亀の井」を造っていた。
今年でおよそ150年を迎えるが、蔵に関する記録はそれほど多く残されていない。とはいえ、大まかに振り返るとこんな歴史になる。
創業以来、酒蔵は二度にわたって操業停止を経験している。
一度目は大規模な火災。
二度目は第二次世界大戦中の企業統制による操業停止だった。
戦時中に酒造りを中断せざるを得なくなり、その後再開。そして1983年、四代目蔵元の今井俊治氏によって「くどき上手」が誕生した。
さらに1985年には、くどき上手の純米吟醸シリーズを東京市場向けに展開。そこで評価を高め、やがて全国へと広がっていった。
また、くどき上手誕生の裏には今井俊治氏の努力があった。
彼は茨城県の明利酒類で吟醸造りの技術を学んでいる。
(明利酒類は協会10号酵母を生み出した酒蔵として知られている。)
そして、その協会10号酵母を使って世に送り出した最初の酒が「くどき上手」だった。
酒蔵について調べても、正直なところ情報はあまり多くない。
それでも構わない。
酒蔵そのものの歴史に、人を強く惹きつけるようなドラマがあるわけではない。
それにもかかわらず、くどき上手が私の好きな銘柄になった理由。
それはやはり――
「味」だ。
くどき上手の味
くどき上手は全体的に、キレの良い酒を多く造っている。
口に含んだ瞬間にアロマ由来の甘みと香りが感じられ、精米歩合の低い酒が多いため、日本酒特有の麹の香りや重たいボディ感はあまり感じられない。
亀の井酒造で造られる日本酒の平均精米歩合が50%未満であることを考えると、くどき上手のラインナップは全体的に純米大吟醸クラスの精米歩合(50%未満)だと考えてよい。
さらに純米大吟醸の基準を超え、精米歩合11%、15%、22%など、非常に長い時間をかけて丁寧に磨き上げた米で造られた酒もラインナップの大きな割合を占めている。
そのため、繊細な味わいが好きな人には、くどき上手の純米大吟醸シリーズを飲んでみることをおすすめしたい。
だからといって、辛口系のくどき上手が物足りないわけではない。
むしろ、くどき上手の「ばくれん」のような超辛口ラインは、和食との相性が非常に良い。
亀の井酒造は、甘口は甘口として、辛口は辛口として、それぞれの魅力をしっかり引き出せるオールラウンダーな酒蔵だと思う。
しかし、私がくどき上手のファンになったきっかけは別にある。
韓国でインターネットを通じて購入した「くどき上手 Jr.」だった。
くどき上手jr.とは
くどき上手には、大きく分けて三つのシリーズがある。
一つ目は、スタンダードモデルの「くどき上手」。
高精白をベースにした、やや甘口ややや辛口の飲みやすい純米吟醸・純米大吟醸が主にラインナップされている。
そして二つ目が、くどき上手の超辛口シリーズである「ばくれん」。

亀の井酒造が意欲的に展開している、シャープでキレのある味わいを追求したラインナップである。
そして三つ目が、亀の井酒造のラインナップの中で私が最も好きなシリーズ、「くどき上手 Jr.」だ。

くどき上手 Jr. は、現在五代目蔵元を務める今井俊典氏が、父親の生み出したくどき上手の先へ進み、自分自身のくどき上手を世に送り出したいという思いから立ち上げた新しいシリーズである。
名前こそ「くどき上手」に Jr. を付けただけだが、目指している方向性は明確に異なる。
くどき上手 Jr. には、より濃厚で甘みのあるタイプの酒も多く、まるで白ワインのように日本酒だけでもするすると飲める酒が中心となっている。
また、実験的な酒を積極的にリリースしていることも特徴の一つだ。
毎年定番ラベルも発売される一方で、挑戦的なコンセプトの酒も数多く送り出している。
例えば、くどき上手 Jr. のラインナップに「不思議ちゃん」という銘柄がある。
精米歩合は45%。
そして、その後に登場した「摩訶不思議ちゃん」は、精米歩合以外の条件をすべて不思議ちゃんと同じにしながら、精米歩合だけを1%下げた酒である。
わずか1%の違いが酒質にどのような影響を与えるのかを体験できる、非常にユニークな一本だ。
また別の例として、酒米の王様とも呼ばれる山田錦が異常気象の影響で栽培しづらくなったことから、その代替品種として注目を集めている「白鶴錦」がある。
この酒米を使用した「くどき上手 Jr. 白鶴錦」も、実験的な取り組みを象徴する一本と言えるだろう。
しかし、広く知られるブランドになるためには、実験精神だけでは足りない。
味まで認められて初めて、市場で長く生き残る資格を得られる。
だからこそ、くどき上手 Jr. は単なる挑戦や実験だけで生き残った新シリーズではない。
しっかりと味まで磨き上げたシリーズなのである。
既存のくどき上手とはまったく異なる方向性を打ち出しながら、それでいて消費者から支持される味を実現した俊典氏は、本当にすごいと思う。
まとめ(私の考え)
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